監督にとって映画は娘。 [編集作業]

作品というのは、監督にとって娘のようなものだ。
何とか無事、この世に生み出し、
多くの人に愛される存在になってほしい。
だから、出来る限りのことをする。
生まれ来る娘のためになら、全てを投げ打つ。
だが、世の中には、生まれたばかりの子を踏みつけにする輩もいる。
以前、こんなことを言い出した奴がいた。
「この子の右腕いらないんじゃないの?」
企業にとっては、単なる商品かもしれない。
だが、監督にとって映画は娘。血の通った我が子だ。
危害を加える者がいれば、誰であろうと戦わねばならない。
自分が傷つき滅んでも、守るべき存在。
相手と刺し違えてでも、守り抜く。
踏みつけられ、歪められて誕生した子は、人に「愛」を伝えることはできない。
でも、大切に愛情を受けて誕生した子は
必ず、多くの人に「愛」と「感動」を伝えてくれる。
何年にも渡って、伝えてくれる。
そんな子供に育つように、命をかけて娘を守る。
それが監督という仕事だ。
(つづく)
編集終了での出来はどうか?(下) [編集作業]
俳優たちが見事な演技が胸を打つ。
そんな場面がいくつもある。
職員室のミチル(平沢いずみ)、土手の上のトン子(田辺愛美)
目頭が熱くなる。
そして、ラスト近くの**のシーン。
ここは5人が全員凄い。
相葉、草刈、橋本、田辺、平沢。本当に凄い!
もう演技ではない。その顔を見ているだけで泣きそうになる。
僕のシナリオや演出を超えた、十代の思いが胸を熱くする。
編集を終えて、かなりいいものが出来そうな予感。
でも、気をつけないと、この段階でバカなことをすると
全てが壊れてしまうことがある。
気を抜かずに作業にあたろう。
あとは音楽、SE、整音、等を経て、完成へとたどり着く。
(つづく)
編集終了での出来はどうか?(中) [編集作業]
かなり力の入った映画になっていた。
僕自身が考えていた以上に中身が濃く、パワーがある。
キラキラする青春があり、
微笑ましい笑いがあり、
涙があり、感動があった。
よくある軽めの青春ものではない。不真面目なギャグで笑わせるドラマでもない。
まじめに時代と向き合った作品。
十代の子供たちの物語。
そして、浜松の風景が美しい。
主人公たちを優しく包む浜松の町。物語を暖かいものにしている。
1年がかりで撮影した浜松の春夏秋冬。
本当に美しい。やはり、浜松は最高だ!
物語の方。感動シーン。いくつもある。
コロッケの場面。相葉香凛と草刈麻有が素晴らしい。
撮影時のエピソードはまた書くが、ぐっと来るものがある。
土手の下の三美子(橋本わかな)シーンも凄い。
ここは反則だろう!というくらいのストレートだ。
そして。
(つづく)
編集終了。出来はどうか?(上) [編集作業]

編集で気をつけねばならないのは、
いくらそのシーンがうまく出来ても、
全編を通して見るとよくないことがあること。
また、そのシーンだけ見ると退屈しても、
前後のシーンがあることで盛り上がることもある。
なので、一応最後まで編集したら、通して作品を見る。
僕の場合。仮の音楽や効果音も入れる。
音楽が入ることで、感動シーンになるのに、それがないばかりに退屈だと思えて
編集を直すと、今度は音楽を入れたときに、感動できないことがある。
あと、日本映画の場合。
「このシーンは長いなあ。もっと詰めよう」
とかいって、短くしてしまう。
だが、編集段階で長いと思っても、そこに音が入り音楽が入ると
ちょうどよくなって、感動シーンになることが多い。
どうしても、日本映画での音楽の扱いは軽く、
バックで気づかないで流れているもの。という認識でしかない。
音楽の効果を考えた上の、編集ということをしない。
だから、僕の場合。イメージする音楽等を流し、完成状態が想像できる形にして見る。
さ、そうやって見た「書道♡ガールズ」
どんな感じになったのか?
(つづく)
不思議の国への旅(5) [編集作業]

思い出した話がある。
あるベテラン俳優。渋い中年親父を演じると光る。
彼はときどき、事件を起こす。暴力行為等で警察に捕まったこともある。
インタビューで言っていた。
「そのときのことを考えると、必ず暴走刑事とかヤクザの役をやっているときなんです。
撮影が終われば切り替えて、自分に戻るようにするんですが、どうも役が完全に離れない
みたいで・・」
その気持ちとてもよく分かる。
編集しているときも、近い感覚。
ただ、演じるのと違って、ダイレクトに役=自身がリンクしないこと。
不思議への旅のようなもので、さらに異常な感覚にさらされる。
現実に戻ってくると真っ白になり、何もできなくなるが
真子やみさとに会えたこと。
三美子やトン子。ミチルに卓也が元気にしていたこと。
とても、うれしかった。
とか、書くと「頭おかしいんじゃない?」と言われそう。
編集という作業を伝えること。やはりむずかしい。
(つづく)
不思議の国への旅(4) [編集作業]

そんなふうにドラマの世界に、タイムスリップしているとき
電話をかけて来られると、いっきに現実に引き戻されてしまう。
そして、再び真子たちの世界に戻るには、何日もかかる。
現実に戻っても、気持ちは引きずったまま。
みさと(草刈麻有)の悲しいシーンを編集していると
コンビニに食料を買いに行くときも、悲しみを引きずる。
そこでコンビニ店員が無神経なことをしたりすると
「だから、大人は嫌いなんだよ!」
と叫んで、モップで殴りそうになる。
これが八代先生(波岡一喜)のシーンだと大変だ。
苛つくことがあると、即、殴り込みだ。
(つづく)
不思議の国への旅(3) [編集作業]

撮影現場では、カメラの後ろにいて
遠くて分からなかった真子の目の動き。
編集中。いや、真子の世界に迷い込んだ僕は、それを間近で見る。
ああ、真子はハマコー先生に呼び出されたとき、こんなに不安だった。
みさとが砂浜で告白したとき。こんな悲しい顔をしていたのか。
タイムスリップして、あの瞬間に戻り。
真子やみさとたちの青春を見つめる。
少女たちが悲しいときは、一緒に悲しみ。うれしいときは一緒に喜ぶ。
ハマコーに会いに行く真子の姿に「真子!がんばれ!」と声援を送る。
ミチルが職員室に登場したときは、
「みちる! ありがとう!」と涙が溢れる。
ハマコーが裏工作をしているときは、怒りが吹き出してくる。
「だから、大人は嫌いなんだよ!」
と、みさとと同じことをつぶやいてしまう。
(つづく)
不思議の国への旅(2) [編集作業]

今回の映画「書道♡ガールズ」のクランクアップのとき
もの凄く悲しかった。
1ヶ月以上も一緒に旅してきた高校生の真子やみさと、
別れなければならなかったからだ。
もちろん、演じてくれた相葉香凛や草刈麻有とは、また会う機会がある。
でも、真子やみさととは、これでお別れなのだ。
三美子とも、トン子とも、ミチルとも、さよならしなければならない。
「真子はあの大会が終わったあと、どうしているんだろう?」
「みさとは書道部続けているのかな?」
そんなことさえ考える。
そして編集が始まった。
映像を繋いで行くと、あの懐かしい真子たちの世界がそこに広がって行く。
うるさいお母さんがいて、のんきなおじいちゃんがいて
ハマコー先生がいて、湖があり、古い町並みのある素敵な町が存在した。
僕はまるで幽霊になったように、姿形はないが
真子たちの町で、あの大会までの日々をもう一度体験することになる。
(つづく)
不思議の国への旅(1) [編集作業]

かつてなく厳しかった今回の編集。
それだけに、いろんなことを考えた。
業界の人間でさえ、なかなか理解できない編集作業。
一般の人はもっと分からないだろう。
連絡を控えてほしいとか頼むと、「何を失礼な! 二度と電話しないよ」と
言われたこともある。で、編集作業とはどういうものか?伝えるため
何年か前から使う表現が「霊が降りてくる」だ。
まさにそういう感じなのだが、今回、編集をしていて
感じたことがある。
編集とは、現実を離れ、ドラマの世界に入り込むことのようだ。
そう「不思議の国のアリス」のように、現実から非現実への旅。
今回でいうと、真子やみさとに会いに行く旅なのである。
(つづく)
神経を研ぎ澄ます(下) [編集作業]
そのために編集時は神経を、最大限に研ぎ澄まさねばならない。
言い換えれば、雑踏の中で録音したオーディオ・テープの
ささやくような声を拾うために、
最大ボリュームで聞き続けるようなもの。
顕微鏡の最大倍率で、
小さなウイルスを見逃さないようにするようなもの。
同じように編集は、感じる力を日頃の十数倍に上げる
そして、映像素材を見る。
そんなことを1ヶ月も続けていると、神経も感覚も研ぎ澄まされすぎて
日常生活に戻れなくなる。人と普通に話ができなくなる。
社会で暮らしていると、ときどき無神経な人がいて
無神経なことをされる。こちらも鈍感でいた方が傷つかずに済むことが多い。
編集モードのままだと、日頃の10倍のショックを受ける。
だから、編集を終えてもしばらくは日常に戻れない。
リハビリに時間がかかる・・。
(つづく)
言い換えれば、雑踏の中で録音したオーディオ・テープの
ささやくような声を拾うために、
最大ボリュームで聞き続けるようなもの。
顕微鏡の最大倍率で、
小さなウイルスを見逃さないようにするようなもの。
同じように編集は、感じる力を日頃の十数倍に上げる
そして、映像素材を見る。
そんなことを1ヶ月も続けていると、神経も感覚も研ぎ澄まされすぎて
日常生活に戻れなくなる。人と普通に話ができなくなる。
社会で暮らしていると、ときどき無神経な人がいて
無神経なことをされる。こちらも鈍感でいた方が傷つかずに済むことが多い。
編集モードのままだと、日頃の10倍のショックを受ける。
だから、編集を終えてもしばらくは日常に戻れない。
リハビリに時間がかかる・・。
(つづく)