日米アートの融合 [秘密シリーズ]
「青い青い空」
実は他にも、いろんな技法を使っている。
撮影、編集は伝統的ハリウッド方式。
だが、芝居部分には歌舞伎のスタイルを取り入れている。
八代先生が駅で振り向くシーンはそれ。
他にも歌舞伎から学んだ表現が数々ある。
そして、舞台演劇の技法。スタイル。
この辺「ストロベリーフィールズ」の頃から実践しているが
意外に気づく人はいない。
ある有名劇場のあの方のみか?
それを「青い青い空」でも多様している。
あと、オマージュやパロディというのはある。
先にも書いたが、八代先生が学生時代の喧嘩シーン
「理由なき反抗」のオマージュ
同じく、八代先生が大学時代、不良に追われるのは
「インディ・ジョーンズ/魔宮の伝説」のパロディ。
有名なシーンなのに、気づく人は少ない。
ちなみに、相葉香凛ちゃんが一番お気に入りのシーンだ。
そうして考えると、この映画。
骨格を黒澤映画に学び、中身と表現法はアメリカ映画。
そして、歌舞伎や演劇の技法。
ロックコンサートのライブアクトから学んだことも。
もちろん、何でもかんでも取り入れればいいというものではない。
でも、その東西アートが融合していたからこそ。
LAでも大いに盛り上がり、理解されたのだろう。
カリフォルニア・キッチンの料理であり
山本寛斎や三宅一生のファッションと同じだ。
改めて、LAで学んだ多くのこと
生きていると思える。
(つづく)
「カラテキッド」 [秘密シリーズ]
もう1本。参考にしたアメリカ映画
「カラテ・キッド」
日本風にいえば「ベストキッド」
ジャッキー・チェンのリメイク版ではなく、
パット・モリタのオリジナル版の方だ。
あの映画の見事なところは、日本のカラテだけでなく
日本の礼儀や考え方。文化を
主人公のダニエル少年に伝える。すなわち、観客に伝える。
それでいて、文化映画ではなく、エンタテイメントであり
青春感動ムービーなのだ。
これは日本で「1」を見たが、LAで「2」「3」を見た。
「1」に比べて、他の出来は悪いが、場内は異様に盛り上がる。
これを見たアメリカ人の友人は、しばらく「オオタさん」というので
僕も彼を「ピーターさん」と呼んでいたほど。
(パット・モリタ扮するミヤギは、必ず英語でも「***さん」と呼ぶ)
凄い映画だ!
文化まで伝える痛快娯楽作品!
だったら、書道を扱った映画でも、日本の文化を伝えながら
痛快感動作に出来るのではないか?
そう思って「青い青い空」に挑んだ。
だから、アメリカ人に内容を説明するときは
「書道版のカラテキッドです」
という。これが一番伝わる。
日本で「スイングガールズ」の「書道版」だね?と言う人がいるが
もともと、そちらではなく
「カラテキッド」の「書道版」を目指していた。
だから、クライマックスに八代先生が真子たちの演舞を見守るところ
ここはパット・モリタのラストカットを意識して撮影した。
主人公はラルフ・マッチョなのに、
ラストカットは、パット・モリタ!
最高の笑顔だった。
こちらの八代先生役、波岡一喜も素晴らしい笑顔
横にいる卓也を抱きしめ、もう一度拍手。
パット・モリタに負けない素敵なシーンとなった。
(つづく)
「ロッキー」 [秘密シリーズ]
書道の大会。いかにも書道ではおもしろくない。
で、「ロッキー」の試合シーンをイメージ。
書道大会なのに、リングアナを設定した。
この種のイベントで、アナウンサーによる中継なんてありえない。
でも、ボクシングも、プロレスも、
アナウンサーによる中継があるから盛り上がるのだ。
一時期、格闘技や女子プロをよく見に行っていたが
会場に行くとなぜか?盛り上がらない。
リングアナの声は会場では流れないからだ。
で、書道大会にもリングアナを持ち込んでみた。
書道を中継するなんて、ありえないが
映画的効果を盛り上げることができる。
これはもうひとつ理由がある。
「ロッキー」だけでなく、日本のボクシング漫画の名作
「あしたのジョー」のクライマックスの影響もある。
矢吹丈VSホセ・メンドーサの試合。
あのときのリングアナが最高だった。
白木洋子が一度、会場を飛び出したあと、車に乗るが
ラジオで中継をしている。それがとても効果的!
姿は見えないのに、アナウンスだけで心に伝わる。
そこで書道大会だが、リングアナを使用。
さらに、ジョーの試合を見に、昔の仲間がみんな会場に来る設定
少年院時代の仲間、青山、対戦相手だったウルフ金串、カーロスリベラ
そこだけでもう泣きそう。
そして、アメリカ映画の定番だがテレビ中継。
「ロッキー」や「インビクタス」でもそうが、
SF映画の「ローラーボール」「デスレース2000」でも
中継されていた。
見ている観客まで、視聴者になってしまう。
日米の様々作品の手法。取り入れてある。
(つづく)
「小さな恋のメロディ」 [秘密シリーズ]
職員室の殴り込みシーンもやはり、
「小さな恋のメロディ」の影響が強い。
ハマコー先生はディックス先生のイメージがあるし
モップで殴りかかるみさと(草刈麻有)はやはりトムだ。
真子とみさとが喧嘩するのも
ダニーとトムが喧嘩するシーンの影響?
では、三美子はどこから来たのか?
実在の人物がモデルではあるが、どこかの映画の影響がありそうだが
僕も思い出せない。
三美子とは「ストロベリーフィールズ」時代からの付き合い。
今回、やっと出演してもらったが、
もう、僕も分からないところがある。
そうだ。あと、大会部分。
これは何人かの人が指摘している通りだ。
(つづく)
「青い青い空」と「小さな恋のメロディ」 [秘密シリーズ]
いや、その意味でいうと、
イギリス映画「小さな恋のメロディ」にも
同じようなシーンがいくつかある。
そちらの影響の方が強いかも?
ビージーズの歌がかかり、映像のみで見せる
「メロディ・フェア」「ギブ・ユア・ベスト」「若葉の頃」のシーン。
あと、キャラに関しては意識している。
「スターウォーズ」のオビワン(アレックギネス)のモデルが
三船敏郎であるのは有名だが(出演依頼もされたが、三船は断った)
「青い青い空」のキャラにもモデルがある。
ダニー(マークレスター)が真子。
トム(ジャック・ワイルド)がみさと。
トン子もメロディの友達として、クラスにいる。
ただ、ミチルは・・・
「七人の侍」の久蔵(宮口精二)だ。
もちろん、ただ、そのまま持って来た訳ではなく
真子にも、みさとにも実在するモデルがいる。
それらが全て融合して、真子やみさとが生まれたのだ。
聞いていると、何だか訳分からなくなるが、
それが作品になると、ひとつの世界観の中で
違和感なく存在しているでしょう?
(つづく)
「青い青い空」と「今をいきる」 [秘密シリーズ]
大胆にも「赤ひげ」と「七人の侍」を骨格としてイメージ
「青い青い空」のシナリオを書いた。
書き上げてから、何度もリライト。
その内に、ある映画がダブるようになった。
「あーーーーこれは!」
ようやく気づいた。「今をいきる」である。
型破りな先生がいて、いろんな生徒たちがいて
頭の固い教師と父兄。
構図がそっくりだ。これは全く意識していないが
大スキな作品なので、無意識に影響を受けたんだろう。
ルーカスが「エピソード2」を監督したとき
アナキンとアミダラが花畑で戯れるシーン。
「『七人の侍』にも似たようなシーンがありましたが、影響あるのでは?」
そう聞かれて、ルーカスはこう言った。
「僕は黒澤から大きな影響を受けている。だから、意識しなくても
自然とそれが出ている。君がそう思うなら、きっとそれは正しいよ」
意識して真似ようとするといいものはできない。
でも、無意識にそれが出たときは、昇華され自分のものになっているので
独自の世界観が感じられるのだ。
その意味で、僕はピーターウィアー監督が好きで
自然と影響が出たのだろう。
つまり、骨格は日本の黒澤映画だが、中身はアメリカ映画なのだ。
というのも「今を生きる」だけでなく、
同じP・ウイアー監督の「刑事ジョンブック 目撃者」も大スキ。
アーミツシュの村で、ハリソンフォードたちが家を作るシーンがある
そのイメージで描いたのが「書と音楽のコラボ」シーン。
どちらも、音楽だけで台詞がなく、映像で全てを見せる。
ああ、それならば・・
(つづく)
「青い青い空」と「七人の侍」 [秘密シリーズ]
保本=八代先生。おとよ=真子たちだ。
では、赤ひげ先生(三船敏郎)はどこに行ったか?
というと、和尚だ。
八代先生=保本。保本の先生=赤ひげ。
つまり、赤ひげ=和尚なのだ。
物語でいうと「赤ひげ」の後半。
保本がおとよを看病するあたりからの話を骨格として、
八代先生と真子たちの話を作り
そこに「七人の侍」前半。侍集めの話を
書道部員集めの話を加えて、
野武士との合戦=書道大会のイメージで
物語を作り上げた。
何と大胆にも黒澤明の名作2本を受け皿として、
作品作りをした。
八代先生が延々とオカンの話をするところは
「赤ひげ」で山崎努が恋人の話を語るところ。
その辺がうまく行って、アメリカ人にも理解しやすい作品
となったように思える。
そんな「赤ひげ」を繰り返し見たのも
ここLAの名画座である。
(つづく)
「青い青い空」と「赤ひげ」 [秘密シリーズ]
「青い青い空」が影響を受けた映画。
そんなことを考えた。
それらもLAで繰り返し見ているからだ。
2007年に「書道を題材にした映画を作ろう!」と考えたとき
まず、考えたこと。
どんな作品を受け皿にするか? モデルにするか?
通常、映画を作るとき、作家は方向性やモチーフを考える。
ルーカスが「スターウォーズ」を作るときは
「隠し砦の三悪人」や「フラッシュゴードン」をイメージした。
伊丹十三監督が「ミンボーの女」を作ったときは
「野良犬」だ。本人は公表していないが、間違いない。
真似るとか、パクるというのではない。
受け皿として、そこに自分なりの物語を作る。
「名作から学ぶと、必ずいいものが出来る」
これも確か伊丹十三の言葉。
黒澤はジョンフォードに学び。ルーカスは黒澤から学んだ。
「青い青い空」のシナリオを書こうとした頃、
「スイング・ガール」「フラガールズ」
等が流行。カルチャー挑戦ムービーとでもいうジャンル
でも、そんな感じには、ならないように・・と考える。
軽めの青春ドラマにはしたくない。で、大胆にも・・
黒澤明監督の「赤ひげ」参考にした。
中でも保本(加山雄三)とおとよ(二木てるみ)の部分だ。
(つづく)
「青い青い空」を何度も見てしまう理由(5ー終) [秘密シリーズ]
なぜ、ドキュメンタリーだと何度も泣けるのか?
それは観客の心に、無意識に届くものがあるからだ。
混迷の時代。人は常に不安や悲しみと向かい合っている。
いつ会社が潰れるか? リストラされるかも?
こんな世の中で、子供を育て行けるのか?
大学を出ても就職口がない。
将来のことどころか、今を生きることで精一杯。
親が分かってくれない。子供がいうことを聞かない。
友達ができない。誰も理解してくれない。
誰もが様々な悩みを抱えている。
そんな時代の中。この「青い青い空」は同じような悩みを持つ
10代の子たちの物語。
それも皆、純情で、健気で、まだ世間を知らない子たち
そんな子たちが、悲しみと対峙する。
自分たちと同じように、
人間関係や無理解。不条理な大人のやり方にさらされる。
でも、真子たちは、めげずにそれに立ち向かう。
そして、自分たちの言葉を思いを届ける。
「こんな若い健気な子たちが、こんなにがんばっているんだ
俺もがんばらないと・・」
そう、真子やみさとの行動に、大人たちが共感し励まされるのだ。
これが単なる作り物の物語なら、そこまで感動はしないが
役を演じた相葉香凛や草刈麻有たちのドキュメンタリーなのだ。
芝居や演技ではなく、本当に苦労を乗り越えてがんばった記録。
だから、作り物でないものが伝わる。
映画初出演で戸惑った相葉香凛、
書道で苦労した草刈麻有
難しい役で悩んだ橋本わかな、みんなを支えた年長の田辺愛美
そして英語で苦労した平沢いずみ。
皆が本当に、助け合い、協力し合ったこと。
皆、泣きながら撮影をがんばったこと
それが画面を通して、物語としてだけではなく
事実として観客に伝わり、胸を打ったのだ。
「子供たちがこんなに、がんばっているのだから」
「私もがんばらねば!」「僕も負けてられない!」
そう感じたのではないか?
勇気をもらったのではないか?
元気になる歌というのがある。
坂本九の「上を向いて歩こう」とか
ZARDの「負けないで」とか、
辛いときに聴きたくなる歌がある。
励まされ、元気になる歌がある。
「青い青い空」はそれと、同じ効果があるのだろう。
だから、それらの歌を繰り返し聴くように、繰り返し見たくなる。
それが何度も泣ける理由ではないだろうか?
つまり、若き俳優たち
相葉香凛、草刈麻有、橋本わかな、田辺愛美、平沢いずみ
彼女のたちの「力」なのである!
どうでしょう? fumiさん。
(つづく)
「青い青い空」を何度も見てしまう理由(4)ドキュメンタリー? [秘密シリーズ]
いくら監督が俳優に、自由に演技をさせても、
俳優に力がなければ駄目だ。
そう、今回の「青い青い空」の出演者。本当に素晴らしかった!
役を演じるのではなく、俳優たちが役そのものになって行った。
相葉香凛は真子に、草刈麻有はみさとに
橋本わかなは三美子に、田辺愛美はトン子に
そして平沢いずみは、ミチルになっていた。
その日の撮影が終わっても、そのまま。
ロケというより、本当に書道合宿をしているような感じ。
そこで皆、助け合い、協力し合い、支え合い。
本当の絆が生まれ、物語と同じように
ふぞろいの子たちが一致団結して、大会に臨むという構図が出来て行った。
その後、映画完成。舞台挨拶で草刈麻有に会ったときは
元の麻有に戻っていて、驚いたものだ。
「ああ、あのときは、みさとだったんだ・・」と
そのこと。平沢いずみはこう話してくれた。
「みんなそれぞれの役の資質を持っていたんです。
役になり切ったというより、その部分が前面に出て来たんです」
なるほど、その通りだろう。
だから、大会のシーンとかはもう、撮影という感覚はなく
大勢のお客さんの前で、演舞をする
本物の書道部員そのものだったのだ。
つまり、映画撮影、お芝居というより
若き女優たちが壁にぶつかり、
喧嘩しながら、迷いながら、
がんばるドキュメンタリーとなったのだ。
演技ではなく、
本当に苦労し、努力し、涙を流している姿が
スクリーンに映し出される。
だから、観客の胸を打つのだ。
では、それがなぜ、何度見ても感動することになるのか?
(つづく)